弓道を取り巻く事情
古くから日本人と共にある弓の文化「弓道」
弓道は日本古来の伝統文化であり、現在ではスポーツ競技として多くの人に親しまれています。近年ではアニメやマンガに取り入れられることが増え、海外でも弓道人気が高まりつつあります。弓道は他の武道と異なり、「敵」のいない競技です。静止した的を狙いますが、的に当たることだけが目的ではありません。正しい姿勢、礼法、手順も求められる競技なのです。また、弓道は一人で楽しむこともできますし、チームを組んで団体競技とすることもできます。ここでは、知れば知るほど奥深い弓道について、歴史・成り立ちから現在の弓道事情までじっくりとご紹介します。
弓道の起源・成立時期は?
弓道の大きな特徴の一つに、長弓の使用が挙げられます。オリンピック種目であるアーチェリー(洋弓)と比べると、弓の大きさの違いがよくわかるはずです。長弓の使用がいつ始まったか歴史を辿っていくと、古代にまで遡ります。石器時代末の制作といわれる銅鐸に、長弓の絵が発見されているのです。 (参照:全日本弓道連盟HP http://www.kyudo.jp/howto/history.html)
また、中国の魏志倭人伝にも、日本人が長弓を使っていたことが記録されています。これは3世紀前半のことです。このように、日本では非常に古くから、長弓が使われてきたことがわかります。はじめは狩猟の道具として使われていた長弓ですが、時代が下るにつれ変化が訪れます。日本が中国文化の影響を受けるようになった4・5世紀以降、「射儀」の思想が入ってきました。朝廷行事として「射礼(じゃらい)の儀」が行われるようになり、武家では弓矢と礼の思想が結びつくことになったのです。
武家の勢力が強まる12世紀になると、「犬追物(いぬおうもの)」や「笹懸(ささがけ)」が盛んに行われます。これは心身の鍛錬と戦闘訓練を兼ねた弓を使った競技です。14世紀以降には、礼法を重んじる弓法と実践的な弓法がそれぞれ発達。現在の代表的な弓道流派である小笠原流、日置(へき)流をはじめ、多くの流派が誕生しそれぞれに弓法を発展させていきました。江戸時代になると、心身鍛錬を目的とする「弓道」が確立されました。
まとめると、日本の弓の起源は古代にまで遡り、弓法が確立されたのは14世紀頃といえます。今日の弓道としての形が整ったという意味では、江戸時代が起源だということもできるでしょう。いずれにしても、日本では古くから弓が非常に身近な存在であったことがおわかり頂けることでしょう。
弓道の統括団体は国内に3つ
現在、日本における弓道の統括団体は全日本弓道連盟、全日本学生弓道連盟、全国高等学校体育連盟弓道専門部、の3団体となっています。最も代表的なのが、公益財団法人 全日本弓道連盟(以下、全弓連)です。全弓連は全国47の加盟団体(都道府県)から成る組織で、日本国内における弓道競技の大部分を統括しています。一方、全日本学生弓道連盟は国内の大学弓道部を統括しており、全弓連とは独立した組織です。全国高等学校体育連盟弓道専門部は、公益財団法人全国高等学校体育連盟内にある組織となっています。以上のほか、世界23カ国の団体から成る弓道の国際統括団体、国際弓道連盟もあります。全弓連は国際弓道連盟に加盟しています。
弓道における歴史的人物
弓道を始めるに当たり、ぜひ知っておきたい歴史的人物を3人ご紹介します。
小笠原流の始祖といわれる小笠原貞宗・常興
日本の弓道における2大流派といえば、小笠原流と日置流です。古くから続く伝統ある弓法で、現在も多くの人が学ぶ小笠原流。その小笠原弓馬術礼法の礎を築いたとされるのが、小笠原貞宗(さだむね)・常興(つねおき)です。貞宗と常興は共に後醍醐天皇に仕え、『終身論』と『体用論』をまとめました。これが後に小笠原弓馬術礼法の基本となったのです。小笠原氏は江戸時代には将軍家の弓馬術礼法の師範を務めたことでも知られています。
日置流の祖・日置弾正政次
儀礼・儀式的な側面を重視する小笠原流に対し、より実践的な弓を目標としたのが日置流です。日置流の祖である日置弾正政次(へきだんじょうまさつぐ)は室町時代中期の人物とされ、矢を的にあてることや貫通力を重視した射法が特徴です。日置流は「武射系」、小笠原流は「礼射系」と区別され、射法には細かな違いが見られます。
日置流雪荷派の誕生に関与した、小笠原秀清
弓道の歴史の中で著名な人物として、小笠原秀清(おがさわら ひできよ)の存在も知っておきたいところです。秀清は室町幕府幕臣・細川氏の家臣です。秀清の生家は代々将軍の弓馬師範を務める家柄で、秀清自身も武官・武士の古い事例や慣習にまつわる学問である「武家故実」に関与したといわれています。秀清は日置流雪荷派の始祖である吉田雪荷に故実を伝授したことがわかっており、雪荷の射法論の源流をつくった人物でもあるのです。
弓道の競技人口について
全弓連の会員数は約13万8000人(2017年3月31日現在)です。ただし、全弓連に関係せず活動する流派や弓道活動家もいるため、実質的な競技人口はもう少し多いと考えられます。また、海外における弓道の競技人口は、国際弓道連盟が把握しているだけで約4,500人いるとされています。
日本国内の弓道人口の男女比は、6:4でやや男性の方が多くなっています。弓道は性別や年齢によるハンデがないこともあり、女性から人気のスポーツでもあります。このため、競技人口はほぼ男女半々に近い数字となっています。
弓道における最高目標とは
弓道には「真善美」という思想があります。「真」は、一射ごとに正しい射法を目指すことを意味します。「善」は平常心を保ち、礼節と慈しみの心を大切にすることです。「美」は、「真」の正しい射法と「善」の平常心が一体となったときに体現される、理想的な美しい弓を表しています。弓道は矢で的を射るスポーツ競技です。しかし、矢が的にあたることや競技としての勝ち負けだけにとらわれてはいけません。正しい姿勢や動き、内面の人格的向上によって心身を高めていくことこそが、弓道における本当の目標なのです。全弓連では「真善美」を弓道の最高目標としています。
まとめ
もともとは、戦や狩りの道具として発展してきた日本の弓。時代が下るにつれて、儀式や儀礼的な意味合いを持つようになりました。日本独自の射法が生み出され発展してきたことで、今日の弓道があります。日本における弓道は、小笠原流に代表される「礼射系」と、日置流を筆頭に置く「武射系」に分けることが出来ます。その起源や文化・歴史的背景はそれぞれ異なり、弓道を始めるにあたっては各流派について深く学び理解することが大切です。敵を倒すのではなく、自分自身と向き合い心身を鍛錬することこそが弓道の真髄。老若男女を問わず楽しめる弓道を通して、自分を高めていく経験をしてみてはいかがでしょうか?